長谷川公一、浜日出夫、藤村正之、町村敬志 著の『社会学 新版』有斐閣(2019)の第2部「時間・空間・近代」所収の第7章「空間と場所」を読む機会があったので、まとめながら読もうと思う。
もし本書を読もうとしている人がいたら参考になるかもしれないが、私は自分なりに咀嚼して雑多な文章にまとめているだけなので、著者の真意を正しく理解するには実際に本を読まれることを強くお薦めする。これは自分のための備忘録である。
また、この本は現代社会における様々な問題について、歴史上の偉大な思想家たちが議論して築いてきた考えるための理論がとても整理されている。この本を一通り読むのと読まないのとで、あらゆる問題に対して考える時の視座の確固さは雲泥の差を生むと感じた。ぜひ一読を強くお勧めするし、自分の考え方に揺らぎが生じた時に拠り所にするために傍らに置いておくのが良いと思う。
第7章 空間と場所(pp.197-234)
第1節 壁に突き当たる近代化空間 (pp.198-200)
〇空間論的転回
・狭い領域で生まれ育ちそこで人生を終える、移動が限られていた時代
:自分にとって自明でかつ親密な領域は、自身にとって固有性をもつ「場所」
→移動が加速化し、人・モノ・情報の流れが拡大していく近代
:均質性を備えた広がりとしての「空間」に「場所」が飲み込まれてしまうのでは
…いずれ「空間」じたいも速さによって乗り越えられてしまうのではないか
→空間の削減ではなく、多様な空間、差異をもった場所の創出の試みが行われるように
第2節 社会学の空間体験 (pp.200-206)
・産業革命と工業化、植民地体制の開始と「帝都」形成によって集住を支える技術が発達
→「都市」が発見されると同時に「都市のもう1つの半分」も発見
;都市の社会調査から発見された課題に対処するために社会政策論者が出現
・反都市主義:生産力主義から離れ、人間的・田園的な世界への回帰を目指す立場
・改良主義的空間を目指す立場;社会政策の拡充
・M・ヴェーバーの「都市」認識
「その土地と関係をもたなかった人びと、相互に関係をもたなかった人びとがつくる集落」
特徴:①独自の防御施設 ②局地的市場 ③自身の裁判所と自身の法
④契約によって結ばれた団体としての性格 ⑤自律性と主張の自己決定権をもつ
・ジンメルの「都市」認識
つながりと距離を生み出す「よそ者」によって特徴付けられる空間
:地縁や血縁ではなく目的や機能で結ばれる第二次的関係が台頭しているため、
都市での人びとの関係は匿名性を帯び、お互いの距離感が支配的
:よそ者ー伝統秩序から離れて流入して住みつく潜在的放浪者は、関係資源を活用して
新しい共同性の構築を目指す;同郷、同窓など ←共同体としては擬制でしかないが
・シカゴ学派の研究
・エスノグラフィー(フィールドワークの結果をモノグラフに求まる手法)
・マッピング的手法(社会諸事象を空間的に表現する手法)例p206
・パーク 「人間生態学」
異なる文化を背景に持つ人びとが共存する都市は、道徳的距離を生み出す
都市は接触するが浸透しないモザイク的な小世界になっている(自然発生的地域)
例:移民のエスニック・コミュニティ、階層別棲み分け
第3節 20世紀から21世紀へ (pp.206-218)
・日本の地域ごとの人口推移
自然増に加えて地方圏からの流入により大都市圏で人口増加、
疎開を機に大都市中心市での人口は激減、大都市郊外での人口が増加
地方圏人口は横ばいだったが、少子高齢化により人口減少が進むと予想されている
〇郊外社会 p209
・戦後復興期(1950年代)に誕生した団地では、フォーディズム(大量生産体制に依拠した経済社会体制)による大量生産ー大量消費型のライフスタイルが創り出された
→新興中産階級のライフスタイルを実現する空間(「ブルジョワ・ユートピア」)
・スプロール化(市街地の無秩序な拡大)によって公共財などの生活基盤の整備が遅れるという問題を解決するために政府や自治体が関与したり、住民運動が展開されたりする
・個人主義的傾向の流入者と伝統的共同体に基礎を置く旧住民の混在したコミュニティ
・不動産開発や企業社会によって経済的階層とジェンダー関係によって構造化された空間
・現在の特徴として①年齢的同質性による深刻な高齢化問題の発生、②都心に通うホワイトカラーだけでない、工業地帯や物流センターの建設による「混住の郊外」へ、③外国人の流入でより混在→均質性の高さから微細な差異が異質な他者として「危機」の原因と見なされ攻撃される場合も、④人口減少に伴う都市基盤維持費用問題や医療施設不足問題
〇都心空間 p213-
・工業生産に依拠する近代都市は工場や物流で働く労働者向け住宅が占めていたが、工場移転や新たな交通体系によって工業的空間としての役割を終え、経済的衰退や物理的荒廃、環境悪化などの都心問題(インナーシティ問題)につながった
・グローバリゼーションの発展により、先進国と途上国の間に資本・労働の移動ネットワークが形成され、その結節点として膨大な資本や情報、文化の集まる国家の枠を超えた「世界都市」という役割を果たすようになる
・1990年代以降グローバリゼーションが本格化し、国際空港の建設や超高層オフィス、リゾート開発などメガ・プロジェクトが実施される都市間競争が起き、大都市での人口の都心回帰が目立つように
・ジェントリフィケーション(居住階層の上昇)による周辺部との経済格差、実需から離れた建設、超高層タワー型マンションに住むエリート/ビルの谷間に住む住民/多様な外国人住民/ネットカフェ難民などの不安定層が共存する空間の民主的な維持など、課題がある
〇地方圏 p216-
・1950年代以降の「不均等発展」:地方から工業都市に人口が流出し、経済的格差が地域間・産業間・階層間で発生
・開発主義の限界につき、格差是正の財源削減による自治体の財政破綻や地域の自営業者の衰退、山村や離島における限界集落化といった問題が起きている
;限界集落の問題:①集落機能の低下による住民生活維持の困難化
②高齢者の独居生活・福祉問題
③生産活動の弱化・解体
④地域振興の担い手となる人材の欠如 など
・逆フロンティア:人口減少に伴って人間の生活する空間が縮小する現象
←自治体の規模を拡大する対応策がなされることも;例「平成の大合併」
:地域の努力に依存していてかつその集落の存続可能性を軽視しており、都市と山村の共有財産の視点から考え直す必要のある問題もある
第4節 場所を取り戻す (pp.218~228)
〇「場所」について
・空間 space :抽象的な広がりに力点を置かれる
・場所 place :一人ひとりの人間の身体がおかれた位置との関係で中心付けられる
■「ある空間が、われわれにとって熟知したものに感じられるときには、その空間は場所になっている」Y.トゥアン p218
;空間を場所に変える要素:流れが交錯して集まる「結節点 node」、人目を引く「ランドマーク」、日頃よく通る「道筋 path」、異なる領域の境「境界 edge」、共通点をもち周りから区別される「地区 district」
:K.リンチの提唱した、記憶の中で構成された地理空間的イメージを描き出すことでその人にとっての空間・場所の印象を把握する方法
;階級や人種を背景に「場所」の不平等性も描き出す
〇場所性の消費―観光地について
・「観光のまなざし」問題:観光地に訪れる旅行客はあらかじめ非場所的な実践で得られた記号(的な経験や事物)を求めているため、観光地も期待に応えて実態とは離れた要素を再生産してしまう
・再開発問題:グローバル都市の開発は各都市の均質化を進めるため、戦略的な差異化が求められる。結果、ときには無節操な意味を人工的に持たされ場所が創り出されてしまう
また、再開発の反発としての場所性の保存は、カタログ化された記号としてむしろ変化を後押しする存在になってしまう
〇場所とコミュニティ
近代化→地縁や血縁で結ばれた伝統的共同体コミュニティが解体される
→新たな「つながり」を提唱する人びと
・ウェルマン:コミュニティ解放論;空間から解放され選択的に絆を作り上げる
・グラノヴェッター:弱い紐帯;内部結束が弱くても外部との弱いつながりを確保し利用する等
〇場所の両義性
①一つの空間には複数の場所や場所性が併存・重層しており、しばしば対立を生む
②場所性の演出は、場所がマーケティングされる時代においては遍在的なものになり、地域の個性化よりむしろ無個性さの露呈を行う可能性がある
第5節 「空間と場所」の社会理論へ (pp.228-234)
〇空間の生産
ルフェーブル「空間の生産」の3つの契機
・空間的実践:生産・再生産の諸関係を人びとが無自覚に空間や場所へ反映させる過程
・空間の表象:空間に関する思考や言説が空間にもたらす秩序化の過程
・表象の空間:映像や象徴を通して住民やユーザーに直接に生きられる空間
;現実の空間は3つの契機の対抗や競合のなかで生産されている
・物理的に移動しないまま情報や資本などのフローの空間を介して遠隔地と個人が連接されたり、ネット空間などの物理的空間に縛られない「場所」も存在感を増している。また、社会と国民社会が同一視されなくなり、移動者としての個人の視点から社会はフローのなかにある「風景 scape」として体験されるという考えも出てきている
以下考えたこと。
・観光客として、記号を消費しないような「観光」は、どういったものなのか。観光地として、記号的消費に頼らない観光産業はどういったものが考えられるか。
・人口減少が予測されている将来では、都市中心部・都市郊外・地方圏のあり方は変化するだろうか