https://twitter.com/beatink_jp/status/1578265949932691456?s=46&t=UEKpbae3u0so-9yNizrRww
幸運にも、10月21日に発売されるArctic Monkeysの新譜『The Car』を世界最速で(しかも超高音質な環境で)聴けるというプレミア視聴会に当選した。しかも東京は渋谷(20時)・新宿(21時)の2会場からランダムで選ばれるのだが渋谷会場に当選したため文句なしの世界最速である。
こんな機会は滅多にないと思い、音楽雑誌のライターでも音楽オタクでもない一般音楽ファンの一人である自分が素直に感じた感想(よく言えばレビュー)を書いてやろうではないか。
発売されて世界中のあらゆるファンが聴き始めたらこんなレビューすぐに埋もれるんだから、専門的で詳細な分析はそちらの方々にお任せして……。
会場はヒューマントラストシネマ渋谷。この映画館はシアター1に「odessa」というすごい音響が備え付けられているらしい。そのすごい音響で大音量で最先端のロックが聴けるのだからそれだけでわくわくする。
https://ttcg.jp/human_shibuya/topics/2021/10010000_15971.html
時間が近づくとぞろぞろと今日の日を待ち侘びていた老若男女のファンがフロント付近に集まっていた。当選画面を係の人に見せ、限定ポスターを受け取ると、抽選ボックスに手を突っ込みその場で席が決まるシステム。高級感のある赤いソファが200弱ほど並んだ部屋に踏み込み、指定の席に座ってその時を待つ……。
T1 There'd Better Be a Mirrorball
暗転してすぐ、ベースの鋭いグリスと共に既に聴き馴染みのあるオルガンが流れ始める。今までしっかり意識して聞いていなかったのだが、この曲のライドシンバルはかなり特徴的だ。絶妙なタイミングで抜けるライドと、一定のリズムで流れ続けるオルガンのリフが生み出すグルーヴでゆったりと聴いていられる。裏拍のオルガンがいいアクセントになっている、今後もスタンダードになるであろうリードトラック。
T2 I ain't Quite Where I Think I am
これも前日にライブ音源がYouTubeにアップされていて予習済みだ。ただ収録音源を聴くのは初めて。はじめのAh〜というコーラスはめちゃくちゃ複雑。まるでA Hard Day's Nightの最初のギター音かのように、複雑でありながらその和音でなければいけない完璧なコーラスから始まる。オートワウがかましてあるようなアレックスの弾くギターリフはファンクを思わせる。そしてこの曲、コンガみたいな音が絶妙に入っている。ジャズとファンクとオルタナが融合した名曲。
T3 Sculpitures of Anything Goes
ここからは本当に初見の曲。「なんだこの曲は」の言葉に尽きる。映画館で聴いていたからか、IMAXの映画を見ているかのような感覚になった。シンセベースなのかキーボードで作ったのかわからない重厚でどっしりした音がドーンと鳴り響く上に淡々としたボーカルが乗せられる。それまでのアナログな音作りとは異なって電子的にトリミングされたようなベース音に、段々とドラムやデジタル処理されたギターがユニゾンする。「TENET」のサントラにでもあったのではないかと思う緊張感のある現代的な曲。
T4 Jet Skis on the Moat
いきなりタイトルが歌詞にあった。雰囲気としてはT2と似ていて、ワウのかかったギターが特徴的な6/8のワルツ曲。ジャズ、ファンクだけでなくシャンソン的な趣のある曲。
T5 Body Paint
MVが発表され初めて聞いた時は壮大さにビビッたものの、2回目以降は泣けるほど感動した大名曲。この音響で聴けて幸せ、と思った。改めて聴くと、意外と小さくハットがリズムを刻んでいて潜在的にノれる曲だった。オアシスもストロークスもクイーンもビートルズもいる、アークティック・モンキーズがロックバンドたる所以を決定づけるマスターピースだと、個人的に思う。
T6 The Car
この辺りからT3の異常さに気づく。やはり今回のアルバムはストリングスとオルガンで基本的にアレンジされていて、豊かな表現が少ないリズム隊に乗った管弦楽団とボーカルで引き出されている。T6も同様で、アレックスの芳醇なボーカルを楽器隊が支える構造のシャンソン・バラード。
T7 Big Ideas
メジャーセブンスコードに乗せられて展開する崇高なバラード。マイナーコードに移ったと思えばメジャーに落ち着いたりと、安心して聴くことのできるゆったりした曲。というか、アルバムを通してこういった曲が多い気がする。退屈という意味ではなく良い眠りに着けそう。
T8 Hello You
この曲もコンガが入っている。そういうモードだったのかな?シンセではなくエレピ、もしくはハープシコードのリフが何度も曲中に出てくるアクモンらしい曲。終盤の繰り返しでは裏と表が入れ替わる、少し難しいリズムパターンになっていた。
T9 Mr Schwartz
アコギのアルペジオとブラシのドラムで構成されるシンプルで静かな曲。途中からエレピやストリングスが入ってきて壮大なオーケストラになる。正直こんな曲をアレックスが書けるなんてびっくり。
T10 Perfect Sense
思えば終始オーケストレーションのすごい1枚だった。ラストトラックはストリングスがリズムを取り、アコギがコードを奏でながら、別のストリングスの生み出す美しいメロディを支える。オアシスのWhateverのような極上のバラード。
通して振り返ってみると、どの曲もストリングスのアレンジがすごい。この全ての楽器のスコアをアレックスが手掛けたのだとしたら相当すごい(きっと違う)。ただ、アレンジして壮大で豪華な作品になる曲の大元をライティングしたのは紛れもなくアレックス・ターナーである。リフやリズムパターン、ベースライン、コード進行などそこかしこにアークティック・モンキーズらしさは残っており、しかし進化/深化した新たな一面もしっかり確認できた。もっと聴き込めばより一層一曲一曲の、そしてアルバム全体の魅力や素晴らしさを理解することができるのであろう。
同じ時期に発売された、"車"の上に人が乗ったジャケットのアルバムのようにポップでキャッチーではなくとも、重厚でリッチなロックンロールバンドの進むべき道筋をどしどしと進んでゆく宇宙服姿の4人の背中が見えるような、そんなアルバムでした。
全曲の再生が終わり会場の明かりが点くと、ぞろぞろと階下のグッズ販売コーナーに向かって行列ができた。事前に品揃えをチェックしていたため迷わず購入列に並んで金額も準備し、日本語帯付きLPをゲットした僕は購入者限定抽選でC賞のステッカーをゲットしてほくほくなまま会場を後にしたのだった。