アンダーグラウンド・ハイドアウト

やりたいことをのびのびこそこそと

ローカルな店を巡る:桐生庵

 訳あって川崎市に1週間ほど滞在していたときの話。

 昼ごはんを調達しなければいけないとき、私はいつも歩いて5分くらいのところにあるコンビニを利用していた。だが、せっかく馴染みのない土地にいるのなら、その場所にしかないものを食べたいと思い立ち、チェーン店ではなさそうな蕎麦屋さんに入ることにした。

 地元の人でないと一人で入るのが億劫になりそうなお店に入るのが、個人的に好きだ。特に理由はないが、そういう行為が好きなのだ。自分に与える試練のようなものにもとれるし、常連しか相手にしない店主に対しての試練とも考えられるが、そんなことは考えてはいけない。

 

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 8月12日。照りつけるように暑い日の14時。「桐生庵」という手打ち蕎麦がウリっぽい店に入る。道沿いはガラス張りだが、すりガラスになっているうえにすだれがかかっており中は全く窺えない。常連しか受け付けないオーラが漂っている。

 

 

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 ガラスの引き戸をガラガラと開けると、ぽつぽつといる先客が目につく。店員さんが席を案内してくれる雰囲気ではなかったので、目についた角の席に、店内を眺めるように座った。背中越しに「いらっしゃいませー」の声が掛けられる。

 

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 4人掛けのテーブルが4つと、厨房の前にカウンター席が6つくらい。カウンター席に勉強をしている男性が1人、奥のテーブル席に夫婦とその親とみられる4人が1組、入り口近くに力仕事をしていそうな男性が1人。この男の人は私が入店したと同時に蕎麦をすすりながらもり蕎麦を注文していた。追い蕎麦。店員さんは4人ほど。愛想の良さそうなタオルはちまきをしたおじさんが水の入ったコップを持ってきてくれた。メニューを見る。

 

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 温かいそば・うどんと冷たいそば・うどん以外に、弁当、どんぶりものがあるらしい。私はざる蕎麦が好きなので、ざる蕎麦を注文するつもりでいた。空腹だったので、大ざるそばにした。机の端には、メニューを挟んでおくものと爪楊枝と七味と団扇があった。

 

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 4,5分経つと蕎麦が運ばれてきた。しばらくぶりの蕎麦だった。薬味には刻みネギとワサビが添えられていた。上に載っていた刻みのりが空調に煽られてざるからこぼれていた。

 蕎麦猪口につゆを注いでさっそく蕎麦をすする。美味しい!蕎麦の香りが口の中に広がる。つゆと合う味。

 ……。ただ、それ以上ではなかった。その土地にしかないお店に対して、「地元の人が足繫く通う隠れた名店」という先入観があったので、少し幻滅した。別に不味かった訳ではない。ただ、特別美味しくて知り合いに薦めたくなるかと言われるとそこまでというものだった。ただその土地で愛されている地元のお蕎麦屋さんだったのだ。

 後に四角い急須に入れられて蕎麦湯が運ばれてきた。蕎麦を食べ終えて、まずストレートで蕎麦湯を飲む。少し薄い。その後、蕎麦つゆで割って飲む。美味しい。600円だと考えると、やはり充分な味と量だった。満腹になって支払いを済ませると、私は店を後にした。

 

 知らない土地で知らない地元のお店にふらっと入って、当たりを引くことに憧れがあるし、そんなことをする自分が好きなのかもしれない。ただ、当たりを引くことは難しいかもしれないし、そのお店が続いているのには味以外に親しまれる要素がある可能性もある。隠れた名店を見つけ出す宝探しは上手くいかないが、味に拘らずその地で親しまれている理由を見つけることができれば和やかな気持ちになれるのだ。その感触を求めてさまざまなローカルな店をめぐることは悪くないと思う。

 

追記

私ではない方の桐生庵のレポートブログを見つけたのでリンクを貼っておきます。ぜひ読んで本当の桐生庵の姿を感じてください。

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