アンダーグラウンド・ハイドアウト

やりたいことをのびのびこそこそと

「生産者と消費者をつなぐもの」を読んで

 松井健、名和克郎、野林厚志 編の『グローバリゼーションと〈生きる世界〉――生業からみた人類学的現在』昭和堂(2011)第Ⅳ部所収の池本幸生 著「第11章 生産者と消費者をつなぐもの――ベトナム・コーヒーにみる生業と生産の社会的布置」を読む機会があり、まとめたので、ブログに公開して共有しようと思う。

 もし本書を読もうとしている人がいたら参考になるかもしれないが、私は自分なりに咀嚼して雑多な文章にまとめているだけなので、著者の真意を正しく理解するには実際に本を読まれることを強くお薦めする。これは自分のための備忘録である。

 

www.amazon.co.jp

www.showado-kyoto.jp

 

第11章 生産者と消費者をつなぐもの――ベトナム・コーヒーにみる生業と生産の社会的布置


1.はじめに

・コーヒー市場において、生産国(主に「途上国」)と消費国は遠く離れている

 両者をつなぐのは価格という情報(のみ)

ベトナムの農民はコーヒーの世界価格に非常に敏感

 ;1990年代後半 ベトナムはコーヒー輸出国世界第2位になるほどコーヒー生産が拡大

 →①主産地に移民が流入して土地紛争が勃発

  ②環境悪化;水の取り合い、森林伐採

  ③世界的なコーヒー・ブームで過剰生産→価格暴落→「コーヒー危機」

→対応策;フェアトレード運動や認証マークの導入

 :生産国の情報を消費者に伝えることで価格情報以外の情報を補完して危機を克服する

 ←情報の内容を豊かにすることが倫理的判断を行うことを可能にする

  (アマルティア・セン「ケイパビリティ」概念)

  ローカルな「生業」の場はそれらの情報が充分に共有されている「望ましい社会」

グローバリズムの経済論理(生産)がローカルな「望ましい暮らし」(生業)を破壊する構図

 

2.市場メカニズムの威力

ベトナムは(輸出世界第2位でも)コーヒー産地として消費者にあまり知られていない

←ロブスタ種(インスタントやブレンドの原料)を生産しているから(≠アラビカ種)

 ・病気や暑さに強く、標高もベトナムと合う ・栽培が容易

 →コーヒー国際価格の低落でもベトナムコーヒーは利益をあげた

・コーヒー危機の原因として急速に発展したベトナム・コーヒーは国際的な非難の的に

 ←ロブスタ種の過剰生産がアラビカ種の価格を引き下げる因果関係を示す必要がある

 

3.生産の場に消費者の嗜好は伝わらない

ベトナムにおけるコーヒーの過剰生産の原因

 ・ベトナムの数値目標重視的な性格「質より量」 ←社会主義国(?)

←仲買人に売るときコーヒーのみの質は価格に反映されない

 ・熟した赤い実も未熟な青い実も買取の時には区別がつかず、同じ値段で売られる

 →価格はより良い豆を摘むためのインセンティブになり得ない

←市場の、安ければ買う買い手と安ければ買う消費者の存在が生産国に反映されている

 →消費者の嗜好はより良い質の豆を作るインセンティブになり得ない

 

4.生産国の諸問題を先進国の消費者は知らない

・多数民族・都市に暮らすキン人/国土の7割である高山地帯に住む山岳地帯

ドイモイ政策後の「自由移民」と彼らによる森林伐採

・コーヒー価格高騰に間に合った人と間に合わなかった人の格差

 

5.コーヒー危機への対応

・コーヒー市場における「質の悪い豆」が価格低迷を引き起こしたとして批判

ベトナム政府は対策として

 ・カティモールと呼ばれる種への植え替えを進めたり

 ・コーヒーの機の数を減らすため他の作物への転作を奨励したり した

・現実;農民たちはコーヒー栽培への出費を我慢することで対応した

 忍耐強さ(ベトナム戦争の経験)、リスク回避のための他の野菜の同時栽培

・その後、コーヒー価格が回復しても「ベトナムコーヒー」への印象は定着

 ←質より安さを重視する買い手の存在がベトナムの農民に過剰生産させる

  質を向上させても価格に反映されないなら、むしろ評判が下がれば良いと考える農民

サステナブル・コーヒー

過剰な開発を避け、環境を守り、生産者には高い価格を保障し、消費者には美味しいコーヒーを飲めるようにする 例:フェア・トレード

 ・Good Inside認証

  経済面、環境面、社会面のすべてで一定の基準を満たしていることを示す

  取得しているのは主として大農園のみでごく一部にすぎず、急速な普及も期待されない

 

6.生産と生業の場における情報と倫理的判断

・登場人物がみな利己的行動をとる経済学においては、「経済的最適化」が進むと生産者の生業の局面を生産の局面が覆いつくす

;地元の住民が求める「地域的最適性」は非経済的情報(生産地における環境問題や人権問題に関する情報など)を消費者が得ると、消費者は「搾取的コーヒー」ではなく「倫理的コーヒー」を選ぶようになる(A・スミスの共感理論)

・「持続的発展」のためには一時的な「共感」の視点だけでなく常にグローバルな視点を持つことが重要なのかもしれない

 

 以下、読んでみての感想。

 経済学的な理論とその展開が、グローバル市場は実際の人々の暮らしにとっては良いものとはならないことを示していることと、それを克服するための行動が経済学では組み込むのが難しい倫理的な理論であることが、多角的な視点の重要さと社会学の価値を示しているのがおもしろかった。ただ、生産国の諸問題の情報が「共感」を呼んで消費者に購買意欲を抱かせる内容が書いてあったが、本当にそうだろうか?(人権問題が買う動機になりえるか?顔が見えたら買うのか?)また、「ベトナムで生産されているコーヒーの種類ロブスタ種はインスタントやブレンド種でしか使われず、低価格化を招いて批判を受けた」内容が書いてあったが、実際コーヒーを淹れる際に様々な豆をブレンドするやり方は珍しくないため、批判の根拠としては弱くないだろうか。